一泊二日大阪旅行記 3

フグの向こうに見える通天閣を目標に、細い路地を歩いて行く。
新世界の路地には串カツの名店がいくつもあるようで、昼間から行列ができている店がいくつもあった。

通天閣のふもとでコップ酒飲みながら串カツにかぶりつく。これも大阪観光の王道には違いあるまい。自分がそんなに酒を飲めないので今回はパスしたけど、一度くらいは経験してみたい気もする。

チャンプロードの表紙みたいな衣料品店を通過し、通天閣に到着。

*    *    *

ふもとにある通天閣入り口と書かれた小屋みたいなところに入ると、そこから地下に向かって道が続いていて、着いた先にはお土産屋さんがあった。
通天閣グッズが並ぶお土産屋さんの奥にエレベーターがあり、そこに長い行列が出来ている。
あそこから内部へ登っていくらしい。

エレベーターから出ると、細い通路。前の人の後ろについて、一列になって進む。
ちらと進行方向を見ると、通路の曲がり角のところに通天閣のスタッフがいて、何かをやっている。
近づいていくと、写真撮影をやっているのだと分かる。
遊園地とかでよくあるやつだ。とりあえず記念写真を撮って、出来上がりを見て気に入ったら買ってください、というあれ。

我々夫婦は旅行に行っても食べ物や風景の写真を撮るだけで、お互いの姿を写真に収めるということはまずしない。二人とも写真に撮られることが苦手なので、旅行に限らず、普段でもお互いの写真を撮ることがない。
なのでこの手の記念写真も買ったことがない。

写真嫌いも堂に入ってくると、通天閣の中を見たいだけなのに強制的に写真を撮られるなんて迷惑だ、なんてことは微塵も思わず、流れるように記念撮影をスルーできる。
分かった分かった、さっさと撮って先に進ませてくれ、どうせ買わないし写真も見せてくれなくてもいいよ、お仕事お疲れ様です。くらいの気持ちでやり過ごせるようになる。

と、こんな感じで臨んだ記念撮影、これが意外と通天閣の思い出になった。

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記念撮影コーナーにスタッフは二人、カメラを持ってシャッターを切る女性スタッフと、通天閣のボードの前に観光客を誘導する男性スタッフがいた。

この男性がまぁよく喋った。
通天閣に来た人全員に同じことを説明するんだからもっと省エネしたほうがよいのでは、とこっちが心配してしまうくらい喋りっぱなし。

疲れが少し顔に出ていて、目の光が三分の一くらい消えていたけれど、それでも喋りは淀みなく、彼の口からは一言一句マニュアルだろうと思われる台詞がノンストップで流れ出ていた。
多少はアドリブもあるだろうが、それもおそらく彼の中で定型化されていると思われる。
喋る機械と化した男性スタッフにしばし圧倒された。

さらにこの男性スタッフ、ヒカキンにそっくりというおまけまで付いていた。たぶん狙って似せている。Hello、通天閣。

彼に言われるがまま通天閣のボードの前に立ち、位置が決まったところで女性スタッフがカメラのシャッターを切った。

その次の瞬間、ヒカキン似の男性スタッフとカメラ係の女性スタッフが声を合わせて、

「素敵な写真が〜?撮れタワー!」

と、ポーズをとりながら言った。
二人揃って、両手で頭の上に三角を作るポーズ。「撮れタワー!」の「タワー!」のタイミングで三角。完璧なシンクロ。
あの形はタワーを模していると思われる。おむすび山のCMのポーズ、と言って伝わるだろうか。

この一連のサービスに、私はいたく感動してしまった。ただの記念撮影にも笑いの要素を入れてくるとは、さすが大阪、と心の中で拍手を送った。

写真に自分たちじゃなくてこのスタッフが写っていたら買っていたかもしれない。

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エレベーターで展望フロアに上がる。

360度ガラス張り、一応ぐるっと歩いて東西南北の眺めを見る。新世界を上から見て、今歩いてきたところはあそこだな、などとありきたりな感想を妻に言う。

展望フロアにはさらに上があり、そこへ行くには追加料金が必要とのこと。ふむ。

迷った末に、追加料金を払って上まで行くことにする。上に何を期待するというわけではないが、もう少し通天閣を堪能してもいいだろうという気持ちにはなっていた。

そこにいたスタッフにお金を渡したか、券売機で買ったのかよく覚えてない。とにかく最上階へのチケットを入手したその時。

視界の外からスッと別のスタッフが近づいてきて、(これ、お土産ね)と小声で囁きながら私の手に何かを渡してきた。
なんでもない小さなビニールの手提げ袋。思わず受け取る。何かが入っている重みは感じた。
え、これ何ですか、と渡してきたスタッフの方を見るとすでに別の観光客の対応をしている。

まるで今の受け渡しが無かったかのように振る舞うスタッフ。
他の人に見られてはいけない取り引きが行われたような気がした。

おそるおそる渡されたビニール袋の中身を確認すると、「通天閣もうカレ〜」というレトルトカレーが2つ入っていた。

*    *    *

最上階へは従業員通路のような階段を登っていく。暗い急な階段。
階段の傾斜に沿って壁にネオン管が貼られていて、怪しげな光を放っていた。

最上階は下の展望フロアをそのまま狭くしたような形で、一周するのも一瞬で終わる。
通ってきた新世界はあのへんだな、とさっきと同じことを言ったりして時間をつぶす。

思ったより通天閣楽しかった、という感慨にひたりながら、馴染みのない大阪の街を見下ろした。

*    *    *

再び御堂筋線に乗り、新大阪の駅に向かう。
帰りの新幹線までだいぶ時間があるが、お土産を選んだり、駅のどこかでコーヒー飲んだりする時間は欲しいので、早すぎるということはなかろう。

しかしまあ、大阪に来てから御堂筋線しか乗らなかった。御堂筋線一本で全て事足りてしまった。泊まり先が別の路線だったらもうちょっとバタバタしてたかもしれない。
結果論ではあるけど、くれたけイン御堂筋本町に泊まったのは正解だった、ということだろう。なんだかんだ朝食バイキングも美味しかったし。

さて、新大阪の駅で何を買おうか。
551の豚まんは確定として…
さてさて。

まだフグがあったころの新世界
通天閣屋外展望台へ続く階段