秋は屍、冬は浴室

夏の終わりは木々が紅葉色になるまで続き、落葉を踏むころにはもう冬の気配がする。昔は一年を四等分していたんじゃよ、夏と冬の間に秋という季節があったんじゃ。老婆の話を不思議そうな顔で聞く子どもは西暦何年生まれだろう。

珍しくその日は完璧な秋の空気だった。
陽射しに夏の余韻はなかったし、風に冬の気配はなかった。
近所のスーパーまで醤油を買いに行く途中の道。

進行方向、アスファルトの上にゴミが落ちてるのが見えた。
ぐしゃりと小さくまとめられた緑色のビニール。コーヒー色のセロファンも中に見える。

何かのパンの袋か。
道路に食べかすを投げていくなんて、不届き者もいるもんだ、と思いつつ近寄る。
なんとなく、何パンの袋なのか気になった。

緑なのでメロンパンか。薄茶色はコーヒーか、あるいはチョコレート。中身とは関係ないただの遮光フィルムの可能性もある。

*   *    *

道に水色のパンティが落ちているのを発見して、こっそり拾ってみたらフィレオフィッシュの包み紙だった、という笑い話があるけれど、そのパンの袋も近づくまで何なのか分からなかった。

あと数メートルというところで、ぴっと立った遮光ビニールはカマキリの羽で、緑色の部分は潰れて乾燥したカマキリの胴体であることが分かった。カマキリの死骸。

スーパーで醤油を買い、同じ道を通って帰った。さっきより暗くなったせいか、カマキリがいた方向を見ながら歩いたのにカマキリは見つからなかった。

秋の日はつるべ落とし。あのカマキリは夜の影に消えてしまった。

*   *    *

冬はというと、冬の始まりには線が引いてあって、跨いだ瞬間にここから冬ですとはっきり感じられるようになっている。裸なのでなおさら。

朝、寝ぼけた体のまま服を脱ぎ、浴室に入る。ここで浴室内の空気が今までと違うことに気づく。冬か。湯の蛇口をひねる。最初は水が出るのでしばらく浴槽に向けてシャワーを放射する。シャワーで撹拌された冷気が体に当たる。冬だ。湯になるまで直立不動で待つ。がたがた震えながら、シャワーが湯気を立てるまで待つ。

まず下半身にシャワーを当てる。湯が下半身の体表を満なく温めたところで、肩のあたりから湯を浴びる。ここでやっとシャワーを浴びている気分になる。仕上げに足の裏。小さく足踏みし、流れてくる湯を踏む。ついに全身に湯が回る。

冬の朝。外はまだ暗く。